ジョブクラフティングに関する研究と実践の報告会(2022年5月13日)

ジョブクラフティングについて研究しながら、その過程で生まれたプログラムを実際のワークショップとして実践に挑戦している黒塚です。

2020年から、minorus 主催で「ジョブクラフティングのオンラインワークショップ」を実施してきました。今回の報告会は、これまでの活動を振り返り、今後の研究を考える機会として発表しました。その内容についてご紹介します。

ジョブクラフティングとは

 「Job Crafting」はアメリカで2000代初頭に誕生した概念で(Wrzesniewski & Dutton, 2001)が最初に提唱し、その後欧米で研究が広がりました(※1)。経営学のミクロの組織行動論の中に位置づけられ、日本語訳では「個人が自らの仕事のタスク境界もしくは 関係的境界においてなす物理的・認知的変化」と定義されています (※2) 。

簡単な言葉で表すと「働く人が今担っている仕事そのもの、仕事で関わる人との関係性、そして自分の仕事に対する捉え方を“今までの状態”から自らの意志で少し変えてみること、その結果としてのポジティブな変化」のことです。環境変化が激しい今、働くうえでの価値観や目的も多様になっているからこそ、一人ひとりにとっての仕事とは何かを再考することがとても重要になってきています。

修士研究と修了後の実践

私は慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程で「Job Crafting」の考え方をベースに、働く人が仕事で成長を感じられない状態を緩和するワークショップを開発しました。

そのワークショップは、キャリア心理学の「仕事内容プラトー(キャリアの高台で停滞し、仕事で学ぶべきことや挑戦の気持ちが欠けている心理状態)」 研究の尺度を用いて、実験前後で参加者の心理状態を比較し評価をしました(※3)。研究で一定の効果が観られたので、社会でこれを必要としている人がいるなら体験してもらいたいと思うようになりました。 そんな中、minorusという場を活用して、研究の実践に少しずつ取り組んでいます。大学院修了直後、コロナ禍という環境変化もあり、対面を前提にしていたプログラムは全てオンラインに移行し、同時に意識や行動の変化を実感しやすくなるように再設計しました。

プログラムの内容や実施時間の充実を図りながら「ジョブクラフティングのオンラインワークショップ」として完成させました。まずはプロトタイピングとして、約2年間で計4回・15名に参加いただき、実践できる喜びや手応えも感じながら、今後さらなる改良の材料となるフィードバックも沢山得ることができました。

「研究と実践」の面白さと難しさ

今回の報告会で発表や意見交換をする中で、同じく「研究と実践」を繰り広げている皆さんからの質問・コメントはとても刺激になりました。例えば、ジョブクラフティングワークショップと一般的なキャリア研修やキャリア面談の違いについて、ワークショップでの気づきを意味づけすることとキャリア観(中長期的な展望・過去を振り返っての轍)の関係性について等、Job Craftingのテーマをさらに深掘る内容で盛り上がりました。また、今後の研究目的・スコープも私が考えている以外にも広がる可能性を示唆してもらい、多角的観点から意見やアドバイスをもらえたことがうれしかったです。同時に、新たな発見・解釈を科学的にアプローチする「研究」と、実際の現場で適用していく「実践」はその目的が異なるため、両立の難しさも再確認しました。両サイドを行ったり来たりしながら、研究としての価値や、届けたい人に届けて少しでも役に立てる社会的な価値も、引き続き試行錯誤しながら「研究と実践」の旅をつづけたいと考えています。

次回の「研究と実践」の勉強会も一体どんな話が聞けるのか、今から楽しみです。

引用:

(※1)Wrzesniewski, Amy, and Jane E. Dutton. “Crafting a job: Revisioning employees as active crafters of their work.” Academy of management review 26.2 (2001): 179-201.

(※2)高尾義明. “ジョブ・クラフティング研究の展開に向けて: 概念の独自性の明確化と先行研究レビュー.” 経済経営研究= Journal of business administration and economics 1 (2019): 81-105.

(※3) 山本寛. “働く人のキャリアの停滞 -伸び悩みから飛躍へのステップ-”(2016):18-26.

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